石巻農学⑤ 開催レポート
石巻農学⑤ 開催レポート
2019年1月20日、石巻市農業担い手センターにて、「石巻農学⑤ 車座座談会」を開催しました。
「石巻農学」とは、地域の農業を「知る・学ぶ・つながる」機会を創出するための企画です。ここ宮城県石巻市は、漁業や水産加工の地域でもありますが、農業も非常に盛んな地域。ただ、他の地域と同様に若手の就農促進や、放棄地の活用なども未来に向けての課題になっています。そのような状況を改善していくための企画とも言えます。
5回目となる今回は宮城県美里町で農薬と化学肥料を使わず、自然の力で農作物を栽培するブシャン・アケボノさんをゲストにお迎えし、生産していらっしゃる作物のお話を始め、就農やその他の活動、その中での想いなどを伺いました。
すでに農業をしている方はもちろんのこと、家庭菜園やこれから就農を目指す方など、関わり方はいろいろだけれども、「農」「食」に興味を持つ方々に市内外からご参加いただきました。
ブシャンさんの「あーりぁわらと農園」のお野菜を使ったサラダに、そんな野菜のうまみを活かして、スパイスの調合にもこだわったひよこ豆のカレーをみなさんと一緒に準備。
ごはんもオリーブオイルで炒めたクミンシードと炊き込むひと手間を加えることで、よりインドの、そして食材のおいしさを感じるランチが机に並びました。
農家であり、ベジタリアンであるブシャンさんが作るお野菜、そしてカレーだからこそ、お野菜の美味しさがぎゅっと詰まったランチにみなさんで舌鼓を打ちました。ごはんを食べながら参加者のみなさん同士も打ち解けたころ、ブシャンさんのお話がスタート。
以下、ブシャンさんのお話を一部抜粋してお届けします。
父の背中を追いかけて食、農の道へ
農園の名前にしている「あーりぁわらと」とは、「アーリア(広義のインド)」と「ワラト(場所)」という生まれた国、インドの言葉です。父がインド料理屋をしていたり、子供のころから母が料理をする姿を見る中で、自身も将来、調理師になりたい、と思っていました。
中学2年生で日本に移住し、日本の学校に入学をしました。インドでヒンズー語と英語は学んでいましたが、日本語は初めて。日本の暮らしをゼロからスタートし、将来を考える中で「食」への興味から、お父さんのお店のお客さんに宮城県農業高校を勧められ、目指すことにしました。
高校に入学し、初めて育てた枝豆が種から立派に育つ姿に感動し、さらに農業を学ぼうと、宮城農業大学校へ進学したんです。大学の時はトラクターなど農業機械の資格や、野菜ソムリエ、食品衛生管理など食と農にかかわる資格取得をしたり勉強を継続しました。
大学を卒業し、すぐに自分で農家レストランを、と思ったものの非農家の私には簡単に農地を見つけることはできませんでした。そこで、農地を探しながら父の店を手伝っていたところ、加美町で無農薬野菜を作るという70代くらいのお客さんに「うちで手伝わない?」と声をかけてもらい、一人で農業を営むことを実践的に学びました。そんな中で、「無農薬栽培」でつくる野菜のおいしさ、美しさに魅せられ、自身も目指すことにしたんです。
農業、インドの食文化の魅力を届けたい
そんな折、家族で引っ越し先を探していたところ、父が見つけてきたのが美里町の物件でした。美里町は、私が大学の時40日間ホームステイを場所だったこともあり、その当時お世話になった人たちに相談し、ようやく農地を取得することができました。そこで、大学卒業後1年くらいの研修期間を経て、美里町に引っ越し、いよいよ自分の農園をスタートしました。
無農薬栽培をするにあたって、「始めて3年は土づくりだ」と思っていました。それでも作った野菜をちゃんと届けるべく、育てては美里町はもちろんのこと、松島や仙台にも野菜を自分で配達しに行って、PRもしていました。そうはいっても、一人でやれることは限られていました。そんな中で、今まで自分ではあまり意識をしたことのなかった「若者」、「女性」、そして「外国から来た」というところでメディアにも注目をしてもらい、新聞や雑誌などに取材してもらって情報発信する機会をもらえたことは感謝しています。
現在は直売所なども活用しつつ、栽培した野菜の3割は兄と父が営むカレー料理店に卸しています。美里町に引っ越して、兄も農業に興味持ち、米の栽培をスタートさせました。
身近なところで野菜を使ってもらっていますが、それでも意識しないとお客さんがどんなものを求めているか、自分の野菜を喜んでくれているかわからなくなってしまいます。なので、できるだけお客さんの声を聞けるように、直売所でお客さんに野菜の使い方を提案したり、逆にお客さんが「こう食べたよ!」というのを聞くようにも心がけています。収穫体験や料理教室、学生さんやに話す機会も積極的に活用していますね。
農園の管理は基本的には自身ひとりでしていますが、繁忙期には地域の人たちに手伝ってもらったり、昨年からは週に数回はパートさんに来てもらったりと、農業は一人でやるには限界があるので、なるべく地域の人たちと交流するようにしています。JAの女性部や町の国際交流協会に参加したりも。地域の人と仲良くなるほど農業はしやすくなるんです。その土地にあった農業の知識なんかもアドバイスをもらえたりしますから。
そうすると、今度は農業の魅力はもちろん、地域の魅力も伝えたくなってくるんです。そうした中で、県外から家族の店に訪れた人が、「これを地元でも食べられたらいいのに」という声を耳にして、「いろいろな人がいろいろな場所で食べられるレトルトカレーを!」という思いに至り、ひよこ豆のレトルトカレーを作りました。
当たり前のことかもしませんが、みんなご飯は食べるし、それを作る農家がいなくなったら困るはずですよね。私の友達も含めて、まだまだ若い人たちは農業は古いといったイメージを持っていることもありますが、私の体験と野菜、カレーを通して、その大事さと面白さを伝えていきたいと思っています。
今後は、より一層インドの食文化や農業の魅力を発信していきたいというブシャンさん。「将来的には、会社にして農業はしたいけど一人で始めるのはハードルが高いなぁという人に仲間になってもらえるようにしたい」と夢を語ってくださいました。ひとりでやれることは限られているけれど、学生時代に修得した機械の扱いや農業の技術、そして日々はぐくんでいる地域の人たちとの関係やそこでもらった知識を丁寧に活用して、まじめに、でも楽しく農業に取り組んでいる姿が印象的でした。
最後は、ブシャンさんを囲んでざっくばらんにフリートークを行い、参加したみなさんからは
・楽しそうに農業、食に取り組まれてる姿を感じた。
・地域との関係性を築きながら農業を取り組む姿が(自分も就農を目指すにあたって)参考になった。
といった感想をいただきました。
お話の中であがった「何事も誰かが始めたこと。やらないよりはやった方が良いと思います。だってやらないと始まりませんから」というブシャンさんのお言葉に背中を押してもらいつつ、イシノマキファーム/石巻市農業担い手センターとしても、引き続き、石巻を拠点に皆さんに「農」や「食」への興味、関わりを楽しみながら増やしていただけるように石巻農学をはじめ場の提供をし、みなさんと「農」や「食」の未来をつくっていきたいと思います。
改めまして、お話いただいたブシャンさん、そしてご参加いただいたみなさんありがとうございました!次回もどうぞお楽しみに。